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「なんば」歩き考 その弐

日本古来の歩行法を検証する。


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■幕開けの前に
 まず上の2枚の絵を見て下さい。左は日本でお馴染みの某宅配会社のロゴ写真です。右はアメリカで最も人気のある画家の一人、ノ−マン・ロックウエルの描いた「消防有志隊」の絵です。左が「なんば」走りで右が通常の走りです。両方ともに前に出ている足の踵に注目してください。

■幕開け
 2001年暮れ頃から「なんば」歩きを日常として、すでに1年半が過ぎた。この間の歩行距離はほぼ6000kmになっている。伊能忠敬には及びもないが、日本列島はすでに一周している距離ではある。そろそろ「なんば」歩きも身体に馴染んできて無意識で歩いているのも「なんば」である。
 最近の楽しみは酒席などで「なんば」について語ることだ。どちらを見ても不景気で、暗い話題しかないときに江戸時代の人たちが歩いた方法で歩けることを話題にすると暫し座が盛り上がり、明るい雰囲気となる。
 「右手・右足」「左手・左足」を組にして歩くということは、現代人にとってはギクシャクしたロボットの歩きをイメ−ジしてしまい「奇異の眼差しを向けられるのではないか」と思いがちである。しかし、この歩き方は体重の移動の仕方が現代の歩き方と違っていて腰を捻らずに歩くだけなので、普通に歩いている場合にはほとんど違和感はない。腕を曲げて脇に付けて歩くと、違いがはっきり判ってしまうが、腕を降ろして歩くと、指先は慣性で揺れるために目立たなくなり、ほとんど気づかれることはい。
しかし、「なんば」歩きが生活に密着してくると、新しい疑問も湧いてくる。

■「なんば」歩きの新たな疑問
 考えてみれば、現代歩行の歩幅となんば歩行の歩幅の違いについて調べているうちに「なんば」歩きを実践することになってしまったのだが、自分に納得できる資料を発見できなかったことに始まりがあったのだ。こんな簡単な「歩幅」の検証も現代人には大変になっていたことがよくわかった。

森崎さんの挿絵
元寇絵図

 その疑問は森崎さんの挿し絵にもあるようにつま先歩き(走り)という歩き方と足半(あしなか)という前半分しかない草鞋の存在だった。この草鞋は鎌倉時代から戦争をする兵が履いていたようである。よく見れば元寇の絵図の武士は確かに足半を履いている。
 また、戦闘関係の絵巻を詳細に探すと、兵士は「はだし」「足袋(皮か?)」「足半草履」「草履」それに足袋と草鞋類の組合わせなど色々である。兵士の戦闘ギヤは自前だっただろうから装備がばらばらでも可笑しくはないだろう。ただ、たしかに、戦闘で走る場合の「つま先走り」は無理がないのだが、歩く場合には、女性のつま先歩き以外、違和感がある。
 その疑問は歩き込んで来るうちに徐々に解決したわけではない。「なんば」歩きが出来るようになったのも突然だったようにこの疑問も突然解決した。

秋夜長物語絵巻
風俗図屏風


■現在、無意識に「なんば」歩きをしている場合を思い出す

体験的事例1  校庭の走り方
子供のころに学校の校庭を素足で走り回った経験がある。当時の校庭は舗装もなく、土を整地しただけで小石もあちこちに転がっていたり、埋まっていたりしたものである。そんな校庭を走るには「つま先」や「かかと」で走るのは危険だ。誰に教えられた訳ではないが一番安全な走り方を自分で工夫していた。思い出してみればフラットに足全体を同時に着地させるのだ、この場合、足に小石などが触れたとたんにそれを包み込むように着地するので、足の裏を痛めることはない。当然身体は「なんば的」な動きになっていた。だから走り方は膝のバネを十分に使って「ヒョイヒョイ」と飛ぶような感じになる。

体験的事例2  登山・登り方
山登りをするとき、慣れた人の足の運びは、斜面に足の裏をしっかり置き、足裏全体でフラットに着地させて、次の足を運ぶ時も「かかと」は上げない。リュックを背負っているので体重移動も「なんば的」である。足半草鞋でつま先だけで歩くのは短距離で空身の場合の時のみであり、重荷を背負って長時間歩く場合は前記の歩き方が体力の消耗は少ない。

体験的事例3  登山・下り方
山を降るときは登りより難しい。どうしても「かかと」から着地しがちだ。しかし、土や岩が濡れている場合は転び易くなる。危険な場所での転倒はそのまま滑落という事故に繋がってしまうので注意が必要だ。下りの場合は登り以上に膝のバネが重要で、膝のバネが弱い人はきちんと訓練を積んでから登山すべきだと思う。下りは基本的には体重を片足に完全にかけるようにする。腰が引けている状態では片足に体重がかけられないのは、スキ−などの場合でも体験することである。一歩一歩全体重をかけながら降ることは自分と荷物の重量と重力の加速度を同時に足にかけることになるので、膝のバネが弱いと長持ちがしない。

体験的事例4  雪道の歩き方
雪国で転ばないで歩くためには絶対に踵から着地してはいけない。私の場合、どうも「なんば」的に歩いていたようである。フラットに着地して完全に体重を前足に移すのにはどうも「なんば」的な肩の動きの方が都合が良さそうに思える。ただ、全ての人にとって都合がよいかどうかは不明だ。

体験的事例5  日本の武道
日本の武道といっても柔道が少々と空手がまあまあ程度なのであまりはっきりしたことは言えないが、武道ではよく「すり足」と言う。これは足裏を接地すれすれに運ぶ方法で、体重移動がスム−ズであるばかりでなく全く時間を置くことなく体重移動が可能な方法だ。隙のない身体運びが出来ると云われる。これは完全にフラット歩行である。

 さて、ここまで考えた時やっと履き物の意味が判った。江戸以前の人々の履き物は「下駄」にしても「草履」にしても踵がないではないか。やはり、踵から着地する習慣が文化の中になかったのだろう。天狗の一本歯の高下駄にしてもフラット着地でなければ成り立たない。農耕を中心とした文化は履き物と「なんば」歩行を必要なものとして生み出す必然があった訳だ。

 早速、フラット着地で歩き始めた。当然歩幅は狭くなる。踵をつかず一定のスピ−ドを保って歩ける最大歩幅を探しながら歩いた。表のデ−タを見て判るように歩幅は69cm弱になってしまった。自分の記録75cm(通常歩行)、72cm(なんば歩行・踵着地)ではなく69cmである。伊能忠敬の歩幅と云われる69cmにほとんどぴったりと重なってしまった。ただ、時間の記録を見ると1km/10分のアベレ−ジが少し遅くなっている。2〜3%の遅れがでている。伊能忠敬のスピ−ドがわからないのでどう評価してよいかわからないが、偶然に伊能忠敬の歩幅を検証したことになったのだろうか?。

■デ−タの説明
 前回の実験と同じ条件で改めて実験をしたが、違っているのは背負っている荷物が5kgほど重くなっていることと、着地は踵を先に付けないフラット歩行に変えたことだ。実験とはいってもほぼ1年半毎日実験しているようなものなので結果は十分に予測出来るが、正確なデ−タがとれるように気を使った。
 ほぼ毎朝1回、約8kgの荷を背負ってウォ−キングシュ−ズを履いて歩行の検証を行った。
6km程を歩いてウォ−ミングアップした後1500mの里程標を利用してラップタイムと歩数を記録した。時間の計測にはストップウォッチ、歩測には万歩計を使用した。1500mの里程標は神田川沿いの面影橋から江戸川橋まで500m毎に設置されている標柱を利用した。この里程標は文京区が設置したものだが距離精度は不明である。
1500mの歩数はフラット着地の場合2170歩強で歩幅69cmとなる。
ラップタイムは15分を3%前後オ−バ−する。
歩幅は69cmを中心とすると2%以内の誤差に収まっている。
スピ−ドについては慣れれば1km/10分に戻せる感じはあるが、あまり拘ることではないだろう。


■幕引きに際して
 現在抱えている疑問もない訳ではない。例えば体重移動の力学的メカニズムの考察である。「なんば」歩行が生活・文化の中で必要として生まれたものであるならば、飛脚走りや戦場での走り、田の畦や山仕事での歩行など、その状況がはっきりと理解出来なければ考えた事は単なる推理になってしまいそうなので、しばらくは考えないことにした。
歩いている内、地球を一周するころまでには何か納得できる答えが見えるかも知れない。「農耕民は急がない。」というキ−ワ−ドでも提案してまた歩き出そうと思う。

冒頭の某宅配会社のロゴマ−クの前足はこのままだと、つま先着地でなく踵着地になりそうなので時代考証が間違っているのかも知れない。

平成15年5月13日 
<文責> 保坂 公人

資料1 某宅配会社ロゴ......著者撮影
資料2 「消防有志隊」.....ノ−マン・ロックウェル展カタログ(1992年)
資料3 「森崎さんの挿絵」....「松尾芭蕉は忍者か」森崎益夫 東京経済」
資料4 「元寇絵図」......蒙古襲来絵図(部分) 眞詳日本史図説 浜島書店
資料5 「秋夜長物語絵巻(一部)」...改訂新版 日本の歴史(2)ほるぷ出版
資料6 「風俗図屏風(一部)」 ....改訂新版 日本の歴史(2)ほるぷ出版


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■参考となるインタ−ネットのサイト(1年数ヶ月でずいぶん増えた)
http://homepage1.nifty.com/non_suke/palc/index.htm

http://www.alpha-net.ne.jp/users2/taka1643/home.index.html

http://www.d5.dion.ne.jp/~shorinji/budo/index.htm

http://www.fuushinkai.com/index.phtml

http://www6.plala.or.jp/dohokids/skk/skk.html

http://members.tripod.co.jp/Robosmith/index.html#contents

http://www.hokodo.com/index.html

http://www.bekkoame.ne.jp/~topos/siso/ken.html

http://izayohi.hp.infoseek.co.jp/bugei.html

http://homepage2.nifty.com/vitaminkonsu/index.html

http://www.angel.ne.jp/~otagiri/new_page_11.htm#title

http://members.tripod.co.jp/nijuraku/densho/undokai.html

http://www.sendai-sentyuri.co.jp/sup/kobori.html

http://classes.web.waseda.ac.jp/z-umemori01/higuchi98.htm

http://www.sengoku-expo.net/text/tf/J/kaisetsu_ashida.html

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Library/8740/equipment/foots/ashinaka.htm

http://www2.csc.ne.jp/~syoukurou/sub.htm

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Library/8740/equipment/foots/foot.html

http://www8.ocn.ne.jp/~sanmin/

http://www.ryuunet.com/culture/kimono/gen-wafuku/essay/kame.html

http://hc2.seikyou.ne.jp/home/jcfa-osakanisi/taikyokuken/nanba.htm

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Bingo/7979/nin.htm

http://member.nifty.ne.jp/manner/6shou/1setu.html#k8

http://www.ctb.ne.jp/~ya86432/index2.htm

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